認知症の予防法は「早く死ぬこと」? アルツハイマー病から論文捏造の現場まで…老親を抱えた人必読『これだけは知っておきたい認知症Q&A55』
40代になると、親は70代くらい。
祖父母の介護を孫世代に負担させなかった親に感謝しつつ、いつの間にか自分が親世代、親が祖父母世代になっていることに気付きました。(遅いっつうの)
私には想像するだけで怖いのは親が認知症になること。
ためしてガッテンの知識しかなかったのですが、急速に怖くなってきたところに、新刊(歴史書でないですが)を見つけたのでレビューします。
あまり「安心」できる内容ではないですが、同じ世代の人は目を通したほうがいいと思いました(いざというときに震えてなにもできなくなる、もしくは高価なサプリなどに頼ってしまうようになる前に)
埼玉医科大医学部教授の丸山敬さんの『これだけは知っておきたい認知症Q&A55 (ウェッジ選書)』(税抜き1400円)です。2月20日に発売されたばかり、たぶん世界最速レビューです。
認知症=アルツハイマー病とすぐ思ってしまいますが、色々な種類があります。
「アルツハイマー病」
原因は不明だが、最近は、たんぱく質の一種が脳にへばりついて機能不全を起こしていると考えられているそうです。(アミロイド仮説)
ちなみにアルミ説は、過去に工場の事故でアルミを大量に摂取した地域の住民の追跡調査でアルツハイマー病が多くなるということは「なかった」ことからあまり因果関係がないのではとされているようです。
「脳血管性認知症」
確実に予防できる認知症。高血圧や高コルステロール症によって脳の血管がボロボロになるのが原因。メタボ対策(適度な運動や食事)や血圧の薬などで防げます。食生活、生活習慣を改善してメタボを解消するのって難しいんでしょうけど。
「レビー小体認知症」
アルツハイマー病の次に多い認知症で、幻視(亡くなった家族が家にいるなど)をみる。以前はまれな病気とされていたが、検査技術が進み、「アルツハイマー病」と思われていた患者のかなりの数がこの病気だと診断され、増えてきているのだそうです。ボクサーのモハメドアリ氏やマイケルJフォックス氏などが罹患したことで知られる、体が動かなくなるパーキンソン病と合併しやすい。
「ピック病」
かなりたちの悪い認知症。なんと症状が「性格が悪くなる」「罵詈雑言や道徳を逸脱した行動(盗みや異性に激しく迫るなど)」。記憶力の低下は初期には目立たない。最近の「キレる老人」はもしかしたらこの病気の人も多いのかもしれませんね。
認知症は原則治らない
悲しいことに、これらは基本的に治らないのだそうです。(進行速度を遅らせることくらいしかできない)
治る認知症を見逃さないために早期の診察は必要である。しかし、それ以外の認知症の治療効果に過度の期待はしないほうがよかろう。(160頁)
治る認知症は今のところ、歌手の絢香さんらが患ったパセドー病(甲状腺機能低下病)など数少ないとのこと。
ただ、アルツハイマー病の原因はだいぶ特定されきているようです。
アミロイド仮説という説によって、「βアミロイドたんぱく質」が脳内に付着していることが原因ではとされているので、この「βアミロイドたんぱく質」を取ればいいということになりそうで、実際にそうした研究も進んでいました。ですが、ワクチン療法では死者がでたことから、臨床実験がストップしているのことです。
ただ、IPS細胞やSTAP細胞など日進月歩なので、いずれ免疫療法は進んでいくような未来を感じさせる内容でした。(IPS細胞と認知症との係は私の妄想で、本では触れられていません)
認知症の予防は?
結局のところ、認知症を防ぐには、適度な運動、適切な食事をするという、どんな病気予防にもつながることしか方法論がないようです。
アガリスクやコエンザイムQ10、大豆イソフラボンなどのサプリメントの効果はあるかについても、
(1)過剰に服用すると有害なことがある(2)ある条件では効果が観察される可能性を否定できないが、一般的には有効性は疑わしい
138頁
とし、「まあ、負担にならない範囲で楽しむということにすべきであろう」「無理して高価なサプリメントを求めるよりは、楽しくおいしいバランスのよい食事を規則正しく行うようにするのが肝要」と結論づけています。「ダメ絶対」という「ぷぎゃー」するのではなく、医師として患者や家族の気休めになるならそれもまた良しとするスタンスは好感度高いです。
(イソフラボンのホルモン注射は乳がん増加の可能性、アガリスクは発がん促進作用もあると書かれています)
以下のような究極の予防法をあげていることから、現時点での認知症の「重さ」を思い知らされます。
「確実にいえる予防法は、過激ではあるが、認知症になる前に死ぬことである」
160頁
医学界での論文捏造とスラップ訴訟
これとは別に、個人的に面白かった(怖かった)のが、「捏造される論文」(3章33、112頁から)です。なんと、医学の論文の世界ではスラップ訴訟的なの脅しが蔓延しているようなのです。
アルツハイマー病では、ある重要な大発見とされた論文で、人間の組織標本をマウスの標本に組み込んだ捏造疑惑が流れ出して、1992年に追試不可能として著者らが撤回を表明。
さらに
なお、この問題を追及する者に対して、原著者らは直ちに裁判を起こすという噂も流れていた。そのため未だに真実は不明である。
上の論文は日本なのか外国なのは明記されていませんでしたが、昨年から今年にかけて話題になっている製薬会社ノバルティスの問題も書かれています。
血圧を下げる薬は認知症の薬にもなっているからです。
2013年2月に京都府立医大循環器・腎臓内科学の論文を、掲載したEuropeanHeartJournal誌が撤回しました。ノバルティスの薬バルサルタンがほかの製薬会社よりも優れているという内容でした。
撤回はデータの入力に数多くの誤りがあったのが理由ですが、報道などされているように、ノバルティスから研究費が研究室に提供されていました。
この論文には発表当初からバルサルタンの効果が明快すぎる(あまりにすばらしすぎる効果)、あるいは統計学的な解析に問題が疑問が生じていた。学会などでその点を指摘すると、原著書らは怒り狂って訴訟するとわめき散らしたとのことである。企業研究者が一時的に籍を置いていた大学の関係者として発表著者に加わっていたことが明らかになり、原著書のボスだった教授は辞職した。
117頁。
ほかにも日本の麻酔学者が2012年頃から170本以上の論文を撤回してギネス記録になったこと(ほんとにギネスに載っているの?慣用的な表現?)もしりませんでした。
また、捏造だけでなく、日本と中国では英語の論文を翻訳しただけの論文がかなりの数見つかっているそうです。
原因の一つに、学術誌には仮説を証明する論文がほとんどを占めていて、仮説を否定する論文が載らないという構造的問題をあげていて、言われてみればそうだよなあと思いました。
- 作者: 丸山敬
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