国宝はチラシの裏のメモだった?!平安時代の猿スタンプを押した理由を推理する
宮内庁が所蔵する平安時代の古文書の裏にナゾの猿顔スタンプが押されていたと、きのう(2013年4月11日)発表されて、さっそく話題となっています。
写真はNHKのHPをキャプチャー
同庁が2004年、北山抄の写本を整理した際、2つの巻物から朱色の猿の顔のような印55カ所(縦約2センチ、横約2.5センチ)を発見。今年に入り、ばらばらの状態だった別の写本を修復したところ、裏に似たような大きさや形の墨色の印1カ所が見つかったという。
スタンプが押されていたのは、国宝の「北山抄(ほくざんしょう)」の写本です。
いったい、誰がなんのためにこんなスタンプを押したのでしょうか。
滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ
まずは北山抄というのが、なんなのかというと、平安時代中期に藤原公任(きんとう)(966〜1041)という貴族が、藤原氏につたわる儀式を忘れないように、書いたマニュアル本です。
お正月にはなにをやる、皇族が元服するときにはこうする、陛下に日本書紀を教えるときの作法……
というどうでもいいこと(失礼しました)のやり方を寸分狂わぬように書いているのです。
では、キントウという男がなにものかというと、上にある百人一首の作者です。以上。
なぜ、キントウが書いたものが北山かというと、北山の長谷というところに晩年住んでいたから。以上
ともかくこの北山抄は、マニュアルなので、どんどんと写本が作られます。新たな儀式が追加されたり、「キントウ間違っているよ」と後の人が判断したら直したり。
今回宮内庁で見つかったものも、そんな写本の一つです。
この北山抄には、面白い特長があって、平安時代には珍しく、キントウさんが書いた「自筆」の文書が残っているのです。
すげーーー!!とここで驚いてください。
なにしろ、源氏物語も平安時代の現物は存在しません。もちろん日本書紀や古事記も。みんなあるのは、新しい時代の写本。
平安時代の自筆文書!
どれだけすばらしいんだ! 平安末の平泉が残した金銀を使った経典なみの美しさか?!
ところが、キントウさんが書いたのは、チラシの裏だったのです。
当時はチラシはないんで、別の関係ない公文書の捨てるやつをもらってきて、その裏側に「北山抄」を書いていたのです。
そうなんです、大事なことなので繰り返しますが、「国宝はチラシの裏!」
まあ、マニュアルというのは、美術品ではないので、キントウさんは自分が儀式をやって覚えているうちに、ばばばっとそこらの紙の裏を使って、メモ書きして知識を見える化していったというわけです。
猿スタンプの真相はいかに?
で、本題の猿スタンプですが。
常識的に考えれば、蔵書印ですかね?
でも、マニュアルであるという大前提に戻ると、これは「付箋」いや「ラインマーカー」なのではないかと、恵美嘉樹は思うのです。
「ここ、大事だよ」と覚えておくための読書メモ。
恵美嘉樹も先日、読書メモを素で公開しましたが、そこでは「へえ、おもしろい」と思ったところを「GJ」(グッドジョブ)、「これはいい問題提起」と思ったところを「GQ」と自分で決めた符号で印を付けています。
なので、この猿スタンプを握った人もきっと
「ここはエーェンじゃない」という思いで、エン(猿)を押したのではないかと確信した次第です。どうでしょうかね。
↑メモ書きのこしてくれたおかげでこういう風にまとまって平安貴族たちの「お仕事」が今でも分かるのです
*きのうのエントリー間違って消しちゃいました。各紙の引用リンク以外はほとんど同じ内容です。