【書評】歴史研究者に「ですます」調で激しくDISる本郷和人著『戦いの日本史』(角川選書)
うわー。日本人のための世界史入門 (新潮新書)の小谷野敦さんに言及された!(DISられ気味にw)
先日、本郷和人さんに、「東大史料編纂所の史料だけ使って日本史を書いてください」と言っていたのがいて、そんなことができるはずはなく本郷さんもそう答えていたが、私は、典型的な「歴史中二病」だなと思ったのである。
「言っていたの」→わたしです。(本郷さんは「十分に書けます!」と言っているのですがw)
友人(と、ぼくの方では勝手に思っている)の小谷野敦さんの『日本人のための世界史入門』が売れているらしい。慶賀にたえません。すばらしい! ぼくも『世界市民のための日本史入門』書いてみようかな。ま、柳の下にドジョウはいませんよね。
— kazuto hongo (@diamondfloor41) June 14, 2013
@diamondfloor41 「日本人のための東大史料編纂所の資料だけを使った日本史」を書いてほしいです。
— 恵美嘉樹 (@emiyosiki) June 14, 2013
@emiyosiki 史料編纂所は原本をそれほどはもってません。貧乏ですので。 みんな複写(影写本・謄写本・写真帳・デュープフィルムなど)です。これも使って良いのなら、十分に書けます!
— kazuto hongo (@diamondfloor41) June 14, 2013
それでもやっぱり、私は本郷さんにこそ、そういう本を書いてもらいたい。
ちまたでベストセラーになっている、歴史が面白くなる 東大のディープな日本史なんていう、予備校の先生が東大の入試で日本史が分かるよっていう本より。東大の中の人が「東大」というビッグワードを全面にだしながら、ディープなことをチートに表現して、しかもそれがライトな歴史ファンに売れまくってほしいのです。
歴史研究者オール憤死!
というわけで、今回紹介する本は、昨年11月に出た東大史料編纂所の本郷和人教授(中世史・AKB現代史)の最新刊(半年前ながら)です。
本郷さんの本は、いつも新しい視点があります。「覚える日本史」ではなく「考える日本史」。
それだけに、歴史研究者や歴史マニアにとっては、自分のポリシーというか歴史への思いを軽んじられるように思うのか、反発を買いはするものの、炎上して大いに売れはしないという、なんとも微妙な立ち位置です。ブログ含めてこの本の書評もほとんどないし。
「はじめに」の下の2文を見れば、大いに誤解されるのは分かるでしょう。
古代史なんて、なかったら良かったのに
史料なんて、なかったら良かったのに
もちろん、これは「煽り」であって、ちゃんとした理由があります。
古代史不要については
天皇と統一国家を以て古代と近現代を接合し、中近世を犠牲にする。そうするくらいなら、むしろ古代史を斬り捨て、
中世…地方王権の分立
↓
戦国…信長・秀吉による天下統一
↓
近世…徳川政権による国家経営
↓
近代…国民国家の誕生
の方が、すっきりと頭に入ってきませんか。「日本は一つで、中心は京都で、命令するのは天皇で」。これを固定しまうと、とても安易に歴史を語ることができる。
ドラマではありませんが、「事件は現場で起きている」のです。
すごい納得です。
古代にフォーカスしても、邪馬台国からずーっと平安時代まで、天皇(大王)による統一国家と見なされがちです。それは言うまでもなく「日本書紀」という一種のファンタジーによる歴史観なのですが、それが古代だけでなく、日本史全体にまで影響を与えているのだから、日本書紀つくらせた天武天皇はすごいです。
その天武天皇ですから、前半期はカリスマとしての力は弱くて、自分の王宮を新設できなかったくらいです。古代ひとつ取っても、「日本は一つ、天皇の命令絶対」なんてならないわけです。
でも、これは当事者(研究者)にはかちんと来るでしょうね笑 なにしろ「現場を知らない」と言われているわけですから。
史料なんて存在しなければよかった!
で、さらに「プロ」にはかちんと来る一言。
史料なんて、なかったら良かったのに
この理由は、さらに的を得ているし、それだけにかちんどころでなく、多くの人が「見なかった」ことにするだろう、と想像。
日本には諸外国と比べると、驚くほどたくさんの文字史料が残っています。
たとえば古文書を少しかじることにより、未熟な研究者でも「実証的」という立場を手に入れることができる。
彼らはありきたりの史料を、ありきたりに用いるだけ。でも、「考える」ことをせずとも、史料を並べれば、論文らしきものは出来てしまいます。
日本のとくに中世史は史料を並べるだけ、配置するだけ。
歴史事象の解明の方に重点があり、それを統合して「考える」段になると、さっぱり。
もしも日本にも史料がなかったら、研究者はやむを得ず、いまとは異なる方法を考えたでしょう。
ずきゅーん、ずきゅーん、ずきゅーーーん
ネトウヨやブサヨと呼ばれる人たちが都合の悪い情報をネットで見てしまい、読み進めて憤死しないように、そっとパソコンを閉じるのと同様に、多くの研究者がこの「はじめに」の段階で、そっと本を閉じた様子が目に浮かびます!
まあ研究者ではない私なんぞは、ニヤニヤしてしまうのですが、でも、この同業者を批判する内容がディープすぎて、一般の歴史ファンにとっては「??なにと戦っているの??」となってしまうのかなぁと。
ベストセラーになるために一般の歴史ファンの心をつかむには、井沢元彦さんの「逆説の日本史」のような、もっとムー的な陰謀論を臭わせるくらいのインパクトがないとダメなのかもしれません。「奈良時代以前の怨霊信仰があるのを見つけたのは俺!」とか言い切っちゃうくらい。
無知の力は最強です。なかなか知識があるとプライドが邪魔してしまいますが、これまでの本郷さんの本も自虐的スタンスが貫かれていますから、きっとできる。それとも、ワトソン君みたいなピエロ役が必要なのかもしれません。
というわけで、本郷先生におかれましては、ぜひとも『東大教授が教える東大に秘蔵された史料で描く新しい日本史』(萊萊書房)で100万部を目指してくださいませ!
基本に立ち返って戦争の歴史をちゃんと研究するべき!
で、本の中身に行きます!
この本の肝は、歴史学が、戦いそのものの歴史がまっとうに研究していないという、これまたイタイことを指摘した上で、単純な問いを投げかけるところです。
この問いこそが秀逸だと思いました。この本は「人間」が対象ですが、この問いに焦点にあてて「バトル」ごとにまとめてくれる本も読みたいですね。
戦いを理解するためには
1 相争うAとB、どちらが攻めで、どちらが守りが、をまず確認する。
2 攻める側、つまり戦いを起こした側は、何を目的としていたかを明らかにする。
1と2を踏まえて、
3 戦いの目的が達成されているか否かを検証しながら、勝敗を確定する。という手順での考察が必要になります。これが基本中の基本。
何を当たり前なことを、という叱正が今にも聞こえてきそうな話なのですが、いや、ちょっと待ってください。
2の議論が定まっていない事例は、思いのほか多い。
この1、2、3のメソッドは、意識しているだけで、単なる歴史ファンでもすごく戦国史を楽しめることができますね。
1が不明というのはほとんどなさそうに思いますが、本郷さんは関ヶ原の戦いをあげます。
1600年に全国各地で勃発した西軍と東軍の戦いについては、攻撃を始めたのは西軍の石田三成ですが、関ヶ原というピンポイントの戦いでみると、関ヶ原を突破して大坂へ向かう東軍の進撃を、関を砦化して封鎖しようとした守備の西軍といえます。
2の「戦いの目的が謎」については、桶狭間の戦いがあります。
今川義元が上洛しようとしたところを織田信長が倒してしまったというのが定説ですが、いまでは歴史学の世界では、そういうことを主張する人は少なくなっています。
最近は、今川と織田の国境紛争だったというのが主流のようです。
同じように、家康と信玄が戦った三方原の戦いも、信玄の上洛説が定説ですが、桶狭間と同様に、たんに西三河をかすめとろうとしただけというのが有力視されています。
3について、本郷さんは、川中島の戦いをあげています。
これについては、普通は「引き分け」という評価が下されている。
謙信軍が川中島から撤退して帰国している。信玄がこの地を守り抜いている。
ということは勝敗は明らかです。武田の勝ち。疑う余地はありません。ある人はいいます。甲斐勢では、信玄の弟の信繁や諸積虎定(また室住虎光とも)ら、幹部級の武将が討ち死にしている。一方で、越後勢では、そういった人的な被害が出ていない。
それを含めて「引き分け」とするべきではないだろうか。いや、そうした意見は、歴史的な感覚を欠いています。
さすがに大将が討ち取られれば、直ちに敗北が決します。でも、部将が戦死しても、代替はきく。
で、こうした「基本中の基本」の考証作業をこれまで担ってきたのが、中世史研究家ではなく小説家だったと、返り血を浴びまくる指摘をします。
時代を動かした合戦の実像ですら、兵力も装備も戦闘の様子も、解明されていないことがあまりにも多い。みんなまとめて小説家にお任せ、という感じさえします。
研究者の怠慢といわれても、返すことばがありません。
今後の研鑽の蓄積が俟たれる、などという決まり文句で済ませるのではなく、すぐに研究を開始しなくてはならない分野といえましょう。
やっぱり、この本は禁書としましょう!笑
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