歴史ニュースウォーカー

歴史作家の恵美嘉樹が歴史のニュースや本の世界を歩く記録です

神社にはロマンと笑いが詰まっている!

神社が大好きです。早起きは苦手です。
こんな恵美ですが、旅をしている時に早起きしてしまい早朝から神社を訪れることもたまにあります。
そうしたときに、神社の神殿では神主さんら神官の方々が朝の祝詞を奏上している場面に遭遇できます。朝から荘厳な雰囲気で、日々の暮らしに感謝し、世界(日本の?)の平和を祈る声を聞いているとありがたい気持ちになります。

神社若奥日記―鳥居をくぐれば別世界 (祥伝社黄金文庫)

神社若奥日記―鳥居をくぐれば別世界 (祥伝社黄金文庫)

全国に八万社以上あるといわれる神社で、神職として働く人は約二万人。そこに嫁いだ人は、少なく見積もって一万人はいるはず

神職の方も普通の人間なので当然(たいてい?)、結婚したり、しようとしたりしています。そこに嫁入りする人たちは、輪をかけて普通の女性のはずです。著者の岡田桃子氏は数ある神社の嫁の一人、ただしインド生まれの埼玉育ち、キリスト系中高に通った神社界とは縁の遠い女性。

その中でも私は「神社についてよく分かっていない嫁ベストテン」にランキングされるだろう。

本物の十二単衣を着た超豪華な結婚から日常の「業務」、お祭りの裏舞台まで、一般人の知らない神社の今を赤裸々に語ってくれる。前代未聞のルポです。
堅苦しくはない日記風エッセーで、神社をうんと身近に感じさせてくれる一冊です。
神社に神秘とロマンに加えて、親しみも感じたい人にオススメです。

ご祈祷中に読み上げる「祝詞」は、神主ひとりひとりが自分用のものを、願い事別に持っている。祝詞用の奉書(専紙)に、自分で墨と筆を使って万葉仮名で書き、折り畳んで祝詞袋に入れ、身につける。(略)最初のうちは、鉛筆で薄くふりがなをふっておき、慣れるまで練習するそうだ

祝詞が万葉仮名で書かれていたとはびっくりです。
江戸時代までには神社とお寺は一体化していましたから、古代から綿々とこの風習が続いてたとは到底思えず、おそらく明治維新神道国教化の流れの中で、こういう古そうなスタイルが取り入れられたのでしょうね。

最近は巫女がブームなようですが、本物のアルバイト巫女さんKちゃんの告白(P55)は笑えます。巫女さんがいかにすてきだからといってそれだけで恋をしては危険です。

ちなみに巫女になりたい人へのインサイダー情報も、

某神社の宮司さん(七十二歳)によれば、巫女さんの外見の三大条件は、
1 髪を染めていない。
2 前髪はおろさない(おでこには、神様が降りてくるから)。
3 色白。

アルバイトの面接のときには忘れずに。

ほかにも
直会(なおらい)=祭りの後の打ち上げ飲み会
授与=お札などを売る
などの直訳してはいけない神社用語の実態も余すところなく紹介して、とても笑えます。

本書の最大の謎は、なぜか作家の高橋克彦氏が帯に推薦文を出している点なのですが、その答えは著者の嫁いだ神社(大阪府枚方市宇山)の旧社殿地に、高橋氏の代表作の一つ「火怨」の主人公、蝦夷の頭領アテルイとモレが処刑された首塚があるからという点にあるようです。

火怨 上 北の燿星アテルイ (講談社文庫)

火怨 上 北の燿星アテルイ (講談社文庫)

神社の隣の公園でささやかな慰霊祭が執り行われた。斎主は夫がつとめ、参列者は若い女性十名ほど。(略)この公園には彼らの首塚とされる築山があり、昔から地元ではその存在が秘めやかに語り継がれていた。(略)ここは、一部の学者や歴史ファン、アテルイ関連の諸団体や岩手県人会(アテルイ岩手県の出身なので)の方々ぐらいしか御存知でない場所なのである。

ここに書かれている慰霊祭は、高橋氏の火怨を読んだファンがネットで呼びかけたオフ会だったそうです。このネット×神社という動きもなかなかすごい現象だと感心しました。

ブツがなくても、ロマンがあれば女子は来る。すべての人間に必要なのは物語である。大事なのは、その物語をどうやって育んでいくかだと思う

この一文に拍手をおくりました。恵美も同じように「物語と歴史研究の橋渡しをすることで、歴史の面白さをもっと伝えたい」、そうした気持ちでこれまで『図説 最新日本古代史』図説 最新日本古代史と『全国「一の宮」徹底ガイド』
全国「一の宮」徹底ガイド (PHP文庫)
を書いてきました。神社や史跡巡りの楽しさはやっぱりロマンですよね。そうした思いを再確認し、神社をグンと身近に感じることができた必読の書でした。