歴史ニュースウォーカー

歴史作家の恵美嘉樹が歴史のニュースや本の世界を歩く記録です

3・11の翌日の新聞書評面と歴史本

 6回目の「3・11」。これまでは11日に近い日曜日の書評欄も震災にまつわる本の紹介が多かったように感じていたが、今年は全国紙3紙では、宮城・気仙沼の養殖業でコラムニストの畠山重篤さんによる「空想書店」を特集した読売新聞以外、ほとんど震災関連のものがなかった。

 これには二つ理由があるだろう。

 一つは、「売れないから本を出さない」。震災ものの本の売れ行きの悪さは出版業界のなかでも広く浸透している。暗い話は基本的に、多くの人にとっては知りたくない話というのが大きいのではないだろうか。そのうえ震災報道でおなかいっぱいになって、一般の人にとても知識の満腹感もある。

 もう一つは、評者にとっても書評しにくいのだろう。各新聞の書評の担当者は当代一流の人たちである。こうした人たちは過去を振り返らない、前に進む力の強い人たちだ。特に学者などはそうでないと、とても最先端の成果をあげられないだろう。遅々として進まない復興への関心が一番に薄れていくのは、そうした社会のトップ知識層なのではないかと思う。それが一概に悪いとはいえないのだが。

 さて、知識人としてまつりあげられながらも、気仙沼で黙々と漁業を続ける畠山さんが、空想書店で1番に取り上げたのが、松永勝彦『森が消えれば海も死ぬ』(講談社ブルーバックス、800円)だ。

 畠山さんは「森は海の恋人」のキャッチコピーで、森を守ることで適切な養分が海に流れ、かきが育つという構図を広めた第一人者だ。その原点となるのが、この本とはしらなかった。しかも、何千円する専門書ではなく、800円の新書である。

 良書が値段が安く出版され、安いがために広く読まれて社会を変える。これは日本社会の誇りだ。

 この知識と社会を動かす本を通した仕組みがスマホによっって揺るいでいる。

 いまこそ「本は○○の恋人」とのフレーズが必要なのではないか。○○にふさわしい言葉がすぐにうかばないけれども。

 

 3月12日の書評でとりあげられた歴史関連の本を紹介していく。

 読売新聞

 平山裕人『シャクシャインの戦い』(寿郎社、2500円)

 最近、ヤングジャンプのアイヌの少女と旧日本軍兵士の物語「ゴールデン・カムイ」にはまっているので興味あり。

 純朴なアイヌを和人が抑圧するとされている見方から、アイヌの国際性についても描いているとのことだ。まさにゴールデン・カムイの世界観に通じるので購入決定。

すんごい表紙

 朝日新聞

 笠谷和比古『徳川家康』(ミネルヴァ書房、3780円)

 評者の原武史放送大学教授によれば、「本書の説が正しければ、家康が最も恐れたのは自らの死後、淀殿が北条政子のような存在になることではなかったか」とのこと。面白そう。こちらも購入決定。

 毎日新聞

 恒例の「この3冊」に、おんな城主直虎を時代考証する小和田哲男・静岡大名誉教授が登場して、直虎についての3冊をあげている。

 大石泰史『井伊氏サバイバル五〇〇年』(星海新書)

 夏目琢史『井伊直虎 女領主・山の民・悪党』(講談社現代新書)

 川口素生『井伊直虎と戦国の女100人』(PHP文庫)

 どれも新書と文庫なので、いずれ手に取ってみたい。けど、来年になったらよまなくなりそうだけど。