吉田松陰の形見と前橋市が認定した短刀に真贋論争
色々な禍根を残した2015年のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」。
とりわけヒロインと結婚する楫取素彦(かとりもとひこ)は維新後に群馬県令となり、県庁を高崎から前橋へ移したことで、高崎市民から「悪」の象徴とされている。
逆に前橋市民にとっては恩人といえる。
その前橋市が今年(2017年)3月28日に、松陰の形見の短刀が本物と判明したと発表し、3月31日から5月7日まで前橋文学館で公開されている。
この短刀は、松陰の妹の寿(ヒロインの姉で、素彦の最初の妻)が持っていたもので、群馬出身の実業家・新井領一郎が1867年に渡米する際に渡されたもの。
アメリカカリフォルニア州在住の新井の曽孫の家に残っていた短刀で、それが昨年、前橋市に寄託されたとのこと。
この短刀は偽物ではないかとの疑惑が持ち上がっていると、2017年4月17日(月)発売の週刊ポストで報じられている。
同誌によると、形見の短刀の存在を示すのは、新井の孫である故ハル・松方・ライシャワー(元駐日米国大使夫人)が1986年に英語で出版した『絹と武士』(日本語は87年に広中和歌子訳で出版)にて、
この短刀について、
1)国富という銘が入っている
2)長さおよそ35センチ
3)さやは金細工が施された漆塗り
と書かれている。
ところが、今回の短刀は
1)国益という銘が入っている
2)長さおよそ42センチ(刀身だけだと31センチ)
3)*さやについては、雑誌の写真がモノクロでよくわからない
と、だいぶ異なる形状をしていた。
また、同誌の取材に萩市の萩博物館学芸員の道迫真吾氏が衝撃的な証言をしている。
・最初に曽孫にコンタクトをしたのは道迫氏
・短刀の写真を見たが史料と異なる点が多く本物と判断できなかった
・萩市が本物として展示する予定はない
と、否定的なコメントをしている。
では、前橋側はどうかというと、同誌の取材に対して
近現代史研究者で市参事の手島仁氏が答えている。
・出所がはっきりしている
・総合的に本物と判断した
・ハル氏の記憶が間違っている
・長さは目分量だから35センチくらいの範囲内におさまる
同誌は、「昨年8月には短刀を手渡す場面を再現した銅像が前橋公園に設置された。その経緯を考えても、結論ありきの調査という印象は拭えない」とする。
この記事だけを読むと、捏造の疑惑が濃厚だが、週刊ポストがコメントを歪曲している可能性もある。
とくに萩市側がこの短刀を「本物とは言えない」と、どこまで考えているのかが鍵を握りそうだ。