歴史ニュースウォーカー

歴史作家の恵美嘉樹が歴史のニュースや本の世界を歩く記録です

今週の歴史本書評まとめ。毎日新聞であつい歴史本座談会

 毎週「月曜」更新を目指している歴史本書評まとめですが、今週はもう週末。あさってには新しい新聞書評が出ます。
 まぁ、もういいかと思ったのですが、さらっとやっておきます!(なぜ更新が遅れたかというとその理由は最後に)

 今週(6月30日)は、朝日と読売にこれといった歴史本書評がなかったのですよね。
 そうした中で、独走したのが毎日新聞でした。
 まず1面の下の本の広告欄が富士山世界遺産特集なのですが、写真集や登山の方法など当たり前の本が並ぶ中で異彩を放っていたのが、われらが吉川弘文館
 民俗学宮田登の「すくいの神とお富士さん」というシンカーを投げています。

 さらに書評面「今週の本棚」では、トップページで、なんと歴史特集座談会が展開されています!
 3人の評者、磯田道史さん(日本近世・近代史)、鹿島茂さん(フランス文学)、本村凌二さん(西洋史)による座談会です。これはおもしろい。
 3人のうち2人が西洋担当ですから、とりあげる3冊の本も、2冊が西洋、1冊が日本史です。
 1冊目は「ヨーロッパ文明の正体」。正体というからには、常識を覆す内容が期待できそうです。

 中世ヨーロッパで、居酒屋が金貸し業をおこなったことで貨幣経済が農村部にまで広がり、投資が自然となり、資本主義が生まれたという内容の本のようです。

鹿島 欧州では平野部が広く、国家単位の棲み分けが行われ、大帝国が生まれなかった。人口も巨大都市に集中せずに分散する。
 植民地獲得競争が始まるのは、国内的には分散を止めようとした時期だから。
 外から見れば分散でも、国内的には中央集権の動きこそ外への競争を生んだ。分散・分散のみでは説明できません。

磯田 この本を読む限り、貨幣経済の浸透はむしろ、日本のほうが早い。鎌倉・室町時代には農村部に入り込んでいます。ただ 欧州にみる「万民が富の分配に与るチャンス」を持つ強硬な市場システムが作られたかといえば違う。阻害要因は強い消費制限。いわゆる倹約令です。
 つまり財産権の保証がないんです。
本村 希薄な財産権保護の意識は、確かに近代の問題として残る気がします。
(抜粋)

 2冊目は「ヨーロッパの交通史」。
 これはおもしろいですね。日本でも、敵にせめられないように交通整備をあえてせずにいた中で、信長は関をとっぱらったりと物流整備をすすめることで「天下」をとった、という。むしろローマ的な信長は、いわば日本のカエサルか?!

 鹿島 ローマ街道はガリア(フランス)とゲルマニア(ドイツ)の境界となるライン川まで整備されたのに、ローマ帝国の滅亡後わずか100年で消えています。街道に使われた石で民衆が家を建てちゃったから(笑い)
 以降、18世紀頃まで陸上交通は、ほぼ存在しなかった。フランスでは都市間道路が無に等しいので、日本と同じく輿(こし)と牛車を併用した。馬車が発達したのは都市内部なんです。

 本村 プロイセンのフリードリッヒ2世が道路を整備させなかった理由が面白かった。「潜在的な侵略者を有利にする可能性がある」というわけですが、ローマ人は自らを利するためにローマ街道を造ったから、為政者としての発想が全然違う。

 磯田 日本は鉄道に向いた立地なんですね。江戸末期の人口は分散していたが、海岸線に集中していて、これを線でつなぐとすごくうまくいった。

 3冊目は「日本人の地獄と極楽」。
 うーん、これは面白そう。地獄も極楽も、あの世ではなく、金によって現世に現出できるようになった現代日本で、死後のリアリティをなくしたことで、倫理観を失っていくのではないかとも心配されてしまいました。

磯田 時期はともかく、日本も聖と俗の分離をかなり進めた社会ですね。
 地獄語りには、天皇が地獄で苦しめられる様子がしばしばでてくるという。
 天皇という大きな権力でさえ、地獄で組み敷かれるとの意識があった証です。

 日本人の倫理性が高いとされる背景には、識字率の高さもありますが、地獄絵を見て「嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれるぞ」と教わったことからくる、民衆意識の持つ死後のリアリティが大きく影響している気がします。

本村 私の博士論文は古代ローマ奴隷制にかかわる捨て子の話でした。だから「間引き」には興味がある。日本では止めさせるために地獄絵を見せていたんですね。

磯田 日本中にお地蔵さんがたくさんあるのは、地獄への恐怖の裏返しでもあるのです。

毎日には出雲大社の神社ものも


日経のこれもおもしろそう。


 さて、冒頭で、なんで最近更新できないくらい忙しいかというと、参院選に出馬したから!
 ではもちろんありません。
 歴史が好きな同世代の編集者やライター、研究者、漫画家と一緒に歴史ポータルサイトBushoo!Japan」(武将ジャパン)というサイトをはじめたからです。
 手探り状態ですが、硬軟あわせもつ歴史メディアになるよう、お手伝いをしていこうと思っています。ときどき寄稿したり、編集のお手伝いをしたりしていますので、みてやってください。

http://bushoojapan.com/