歴史ニュースウォーカー

歴史作家の恵美嘉樹が歴史のニュースや本の世界を歩く記録です

マックのハンバーガーを食べながら

恵美氏よりバトンを受けて。

今の気分で大好物の食べ物ベスト5をあげろと言われれば(だれも言っていませんが)、
1)(うまい)メンチカツ
2)ハンバーグ
3)豚カツ
4)グラタン
5)ラーメン
となるでしょうか(だれも聞いていません)。

特に肉料理は大好きです。
マクドナルドのハンバーガーや、吉野家の牛丼、ケンタッキーなどジャンキーなものも棄てがたい。さらにステーキ、すき焼き、ショウガ焼きなどなど、肉料理と呼ばれるものが大好きですね。
「今日から肉は食べられなくなりました」などという法律ができたら、「にぐ〜」などと意味不明な絶叫をしながらもがき苦しむにちがいありません。

人と動物の日本史 1 (1) 動物の考古学

人と動物の日本史 1 (1) 動物の考古学

今回取り上げる本に、鵜澤和宏さんが「肉食の変遷」という文章が載せられています。
過去50年間に肉類の摂取量は4.4倍になっているとのことです。(147ページ)

こうした肉食も、歴史でみてみると、意外な「断絶」があるようです。


弥生時代ごろに大陸から牛や馬、ブタ、ニワトリなどが稲作とともに渡来しました。なかでもブタやイノシシは家畜化され、食料として食べられていたようです。

考古学的な見地から、肉が食べられていたのかどうかの判断は、出土した骨に残る解体痕とよばれるキズが大きな手がかりとなるようです。食べること以外にも、儀式の供え物となったこと、あるいは毛皮や骨を装身具に利用したこと、またはペットなどの他の理由が考えられるからです。

古代にもしばしば肉を食べるなという禁令がだされています。このことは逆に、肉を食べていたことを意味します。

しかし、なぜか中世以後には食べられることがあまりなくなったようです。

もっとも、全く肉食が行われなかったわけではありませんでした。本書によれば、主に食べられていたのはなんとイヌでした。イヌは家畜化されたのではなく、また現状では都市部でのみ確認される程度のものだったようですが。

(169ページ)
食用選文のイヌが飼育されていた記録はなく、野良犬をとらえては食べるという行動だったと想像される。

こうした状況は近世においても変わらなかったようです。

さらに筆者はおもしろい指摘をしております。

日本人の身長は古代以降に低下をはじめ、近世にもっとも小さくなるというのです。この身長の推移を著者は中世から近世にみえる劣悪な都市生活が原因となった栄養不良によるものと大胆に推理します。

そして中世からみられるイヌ食も、栄養不足を補うために人の残飯をあさって手近にいる野良犬を捕らえて食べた程度のものだったと推測します。(172ページ)


牛は弥生時代の終わり頃には大陸から日本にやってきました。

古代にはしばしば食べられていた牛は、中世以後、農業に使われることこそありましたが、食べられることはありませんでした。
明治維新のころになってようやく、西欧の牛鍋が大流行し牛を食べることが日本中に広まりました。そのため、牛を食べることは、たかだが100年足らずしか歴史がないことになります。


こうした「肉食の断絶」はなぜおこったのでしょうか。

中世になると、肉食をけがれと見なして忌避する思想が広がったようです。そのことが肉を食べることのなかった1つの理由とも考えられています。

また、仏教の影響が考えられます。本来仏教のおしえでは肉食を禁ずるものではなかったのですが、大乗仏教とよばれる日本に伝わった仏教ではいつしか肉食が禁じられたそうです。
この仏教との関連で注目される記事があります。日本書紀には、天武天皇がウシ、ウマ、イヌ、サル、ニワトリの肉を食べる食べることを禁止しています。この禁止する法令から、牛は古代には食べられていたことがわかるわけですが、禁止の期間が4月から9月までに限定されていることから、単に肉食を禁止するだけではなく、農繁期、つまり農業生産に集中するようにという国家の意図があったのではないか、との解釈もあるようです。

また別の理由として、肉以外にもタンパク質を補うことができたという理由も考えられています。


しかしどうも毎日肉を食べ続けている嘉樹としてはしっくりきません。

理由として「そもそも食べるという発想がなかった」というのがあったのかもしれません。
現代の私たち日本人は、イヌを食べることはしませんが、中国や韓国ではイヌを食べることは何ら疑問にも思わないことのようです。
いずれにしても、長い肉食の歴史は、世界史的な見地から眺めてみると、また違った視点でみえるかもしれません。

本書は、人と動物との関係を考古学という視点から通覧したものです。シリーズになっており、別に今後は文献、信仰、現代社会との関わりから全4冊の構成になります。
お世辞にもバカ売れする!という企画とはとうてい思えませんが、これまでに類書のない本で充実の内容となると思います。

これからも紹介して「肉食のナゾ」に迫りたいなと思います。