門田隆将著『「吉田調書」を読み解く 朝日誤報事件と現場の真実』を読む
<あれほどの大キャンペーン記事を、たった一人の1Fの現場の人間を掴まえることもしないまま”GO”することができる新聞。すなわち、自分たちの主張したい記事を書くためなら、「事実」などどうでもいいと考えていることを示している。>(94頁)
この一文が、朝日新聞のダブル吉田誤報問題の真相といえるだろう。
特に福島原発の「所員が逃げた」の誤報について、いち早く疑義を唱えたジャーナリストの門田隆将氏が今回の一連の「事件」をまとめた『「吉田調書」を読み解く 朝日誤報事件と現場の真実』(PHP、1300円)が11月13日に刊行された。
筆者(恵美)は、門田氏が吉田所長にインタビューした『死の淵を見た男』(PHP)を読んでいたため、朝日の「逃げた」報道について、自分のブログでおかしいと声をあげたが、まさかこんな展開になるとは想像もしていなかった。
3月15日の福島第一原発 吉田所長の退避指示を巡る朝日新聞と門田隆将本の大きな違い - 歴史ニュースウォーカー
今回の一連の「事件」の背景になにがあったのか。また、一人のジャーナリストにすぎない門田氏に対して「ジャーナリスト宣言」をかつてしたことのある朝日が組織をあげて法的措置をちらつかせた暗闘など、すさまじい舞台裏がかかれている。(もちろん門田氏視線で)
また、公開された「吉田調書」は内閣府のサイトでPDFで公開されているが、数日間にわたる調書なので何百頁の長さで、とても隅から隅まで読み切れない。(技術的な話が多く、該当の部分を探すのが大変だった)
本書では、調書も分かりやすく、ダイジェストに読み解いており分かりやすい。
「おわりに」で、門田氏は「世の中には、反原発、原発推進など、さまざまな立場の人がいる。しかし、本書は、それら一定の主張を持った人々とは一線を画すものである。物事に「絶対」はないように、特定の主張や立場からしか物事を捉えようとしない人々には本書の内容は、相いれないだろう」と書く。しかし、本書は原発推進派の人にとっては、原発をコントロールすることの難しさと人材育成の重要性(およびその困難さ)が分かるだろうし、反原発の人にとっても、朝日新聞のごく一部(だろう)の記者たちによって長くゆがめられてきた原発報道に基づく運動を修正するよい機会になるのではないだろうか。
目次
1章 朝日新聞の「吉田調書」報道
2章 謝罪会見
3章 全電源喪失
4章 ベントの死闘
5章 海水注入をめぐる攻防
6章 部下たちへの感動
7章 東日本壊滅の真実
8章 「全員撤退」問題の決着
9章 現場は何と闘ったのか
10章 津波対策と新聞報道
11章 吉田調書が残した教訓
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