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歴史ニュースウォーカー

歴史作家の恵美嘉樹が歴史のニュースや本の世界を歩く記録です

憂鬱でなければ、書聖じゃない。王羲之は鬱の上にジャンキーだった

中国・朝鮮半島史

蘭亭序 The Lan-Ting Prolog - 無料写真検索fotoq
photo by Stanley_Hsu

 「憂鬱でなければ、仕事じゃない」というビジネス書がありましたが、「これは!」という仕事を残す人はやっぱり平凡ではありえません。
 それも「立派な人だった」という方向ではなく、どちらかというと「奇人変人」のたぐい。

 4世紀の中国で活躍した「書聖」王羲之といえば、書をしている人はご存じでしょうが、一般人にとっては、ぶっちゃけすぎていうと「明朝体」の産みの親ということでOK。

 より専門的にいえば、今ある字の書き方の、楷書、草書、行書のスタンダードを作った人です。

 日本を含む東アジアは、漢字の文明。その書を「整えた」のは、隷書を決めた始皇帝と、楷書その他を定めた王羲之の2人といっても過言ではありません。

 それだけ伝説の人物なので、さぞかし立派な方だと思われがちですが、端的にいって

「暗い」そして「うざい人」です。
 さらに麻薬の「五石散」をやっているジャンキーです。

 すばらしい書体で書かれた文の内容はというと、
 とにかく「疲れた」「心配だ」「つらい」「苦しい」「悩んでいる」ばっかり。

 たとえば、新出資料としてニュースになった「大報帖」の内容はというと(参考:発見時のエントリー

 私は日々疲れています(吾日弊)

ずーん

 40年前に新出資料となり当時話題となった「妹至帖」は

 妹は至って体が弱い。やるせない。心配だ。

ずーん、ずーん

「喪乱帖(そうらんじょう)」は

 大乱はここに極まり、先祖の墓がまたひどい目に遭いました。それを思うとたまらなくつらくなり、号泣して心もくだけ、悲痛な思いがはらわたを貫きます。
 手紙をしたためながらむせび泣き、言うべきことばもありません
(図録より)

ずーん、ずーん、ずーん


 ほかのも、基本的にこんな感じです。


 とはいえ、「書聖」と神格化された王羲之の人間としての姿を恵美嘉樹は今回の展示を見るまで、全然知らなかった(なんとなく地方の長官もつとめているし、立派な人格者だと思っていました)ので、歴史マニア的には大収穫です。むしろ人間としては好感度アップです笑

 会期はあと1週間。でも、あらかじめいっておきますが、展示としてはけっこう「残念」です。

 理由のひとつは、恵美嘉樹の自業自得ですが、前期にいいものが集中していたのです。(ちゃんとバランスとって前期、後期わけてほしかった)
 見たかった筆頭だった、宮内庁が持つ「喪乱帖」がない!!!!

 あと、海外の資料がほとんどありません。
 これは、マジで痛い。

 一番いいものを持っている台湾からは、ゼロ!
 中国からも、3つだけ。それもたーくさん並ぶ蘭亭序の一部にすぎないので、事実上、(第一室の目玉になるような)貴重なものはゼロ。(もしかして尖閣問題余波?)

 真筆が残っていない王羲之を知る上で、非常に重要な同時代の楼蘭での出土品などもわずか1点(しかも国内所蔵)。

 目に付いた「いいもの」の所蔵先を見ると、東博台東区書道博物館の2つが目立つ。

 この2館は上野駅を挟んで表裏。

 「なんだ。。。上野で集めたものばかりですたい・・・。これは特別展でなく常設展じゃないの」
 と、混雑する中、つぶやいたのでした。

 でも、書聖は鬱だったとしらなかった人は、ぜひ見に行って、「こいつ、なんてウザイやつ。でもスゲー」と驚いてください。(前のエントリーで「スーパー特別展」とはしゃいだだけに、最後は辛口でしたが、入場料1500円の価値はあります)



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王羲之エントリー】