歴史ニュースウォーカー

歴史作家の恵美嘉樹が歴史のニュースや本の世界を歩く記録です

【ネタバレ注意】NHKスペシャル「運命の一枚〜"戦場"写真 最大の謎に挑む〜」の推理の答えを放送前にフルオープン!【キャパの「崩れゆく兵士」はやらせか?】#NHK #キャパ


=「崩れ落ちる兵士」wikipediaより

 今晩(2013年2月3日)NHKスペシャル
沢木耕太郎 推理ドキュメント「運命の一枚〜"戦場"写真 最大の謎に挑む〜」
が放送されます。

 その内容を放送前に、思いっきりネタバレさせていただきます。(TVまで我慢したい人は閲覧注意。途中、途中、「引き返す」場所を作っていますので、ゆっくりスクロールしてください)

 世界で一番有名な戦争写真といえば、ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」でしょう。

 1936年のスペイン内戦で、敵の銃弾撃たれた瞬間の共和国軍兵士を撮影した「奇跡の一枚」です。

 ところが、あまりにも出来すぎ(カメラマンは銃弾が飛び交う中で、敵に背中を見せて撮影したなど)なことから、「やらせ」写真だと、古くから言われました。
 キャパ自身もこの写真については、全く語らなかったので、真相はわからないまま、「キャパの代表作」として今日に至ります。


2009年のヤフー知恵袋には、
「キャパの「崩れ落ちる兵士」はやらせだと言う話がありますが本当ですか。」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1024219920

 という質問があるのですが、これに対するキャパ信者の質問者への攻撃がすさまじい。
 今回の沢木耕太郎さんの証明で、覆されることになる「証拠」をたくさん並べて、質問者を叱責しています。

 かように「定説」というのは、その対象の人物や文物が魅力的であればあるほど、頑迷な信仰者によって、「真実」を追求する、疑問を持つ、という当たり前のことすら、疑うという姿勢に対して攻撃されるのです。(日本だと金印もそれに近いような)


Q「キャパの有名な写真ってやらせという話は本当ですか?」

A(以下、複数の回答者の回答からピックアップ)

  • 質問者さんの知性を疑います。
  • このような先人を傷つけるようなうわさの真偽をとかく言う前に、とりあえず写真を勉強してください。
  • まぁ、下品なことを平気で書くほうが人間性を疑いますが、簡単に他人を蔑むのも人として尊敬できません。
  • 偉大のフォトジャーナリストを、そこら辺の低俗なパパラッチと一緒にしてはいけないと思います。
  • 短絡的でなく、深く思考考察を重ねて貴方自身の結論としてください。
  • 好きな写真家を訊かれて、上位に名前の上がる写真家の代表作をここで、あれはインチキですかとやれば叩かれるのは当然だと思います。例え、趣味だって、自分が真剣にやっている事をけなされると不愉快じゃないですか?

(以上、ヤフー知恵袋の回答から引用、なお執筆時点での質問の閲覧数3068

 となってしまうです。脊髄反射ってこわいですね〜。
 中には、沢木さんの訳書を根拠に「やらせ説」を否定する回答者もいるのですが、見事にはしごが外されるわけです。。。

 一方の沢木さんは「キャパ」という公式の伝記(その中ではもちろんやらせ説は否定されている)を翻訳している経歴があるのに、疑問を抱き続けて、今回、その真実にたどり着いたのです。本当にすごい人ですわ。


 以下、ネタばれですので、番組を見たい人は、見終わったあとにかえってきてください。



















 沢木さん(だけでなく先行した研究者の成果を含めて)が明らかにした新事実は、キャパ信奉者には卒倒ものでしょうが

1)あの写真を撮影したのは、キャパじゃなかった!

 「やらせ」うんぬんのレベルじゃないでしょう!?
 この衝撃の「事実」(沢木さんの論証を見るにまず間違いないです)に比べれば、以下の新事実は小さい、小さい。それでもそれぞれにメガトン級の破壊力があります。

 この最大の答えは、「やっぱりまだ知りたくない!」という人のために、後ろのほうに書きますので、テレビみてからかえってきてください。
 

2)撮影場所は戦闘の行われていたセロ・ムリアーノではなく、戦闘のなかったエスペホという場所だった。

 戦争中の写真ということでしたが、戦闘は行われていなかった・・・・ 

3)撮影した機材は、ライカでなく、ローライフレックス(上からのぞくカメラ)だった。

 ところが、ほぼ同時に、ライカで撮った別の角度からの写真も残っていた!

4)崩れ落ちる兵士は、その後もぴんぴんしていた

 解明された他の写真の撮影順番から、

崩れ落ちる兵士Aさん(例の写真)

遺体のように寝ころんだAさん

遺体なはずのに場所をかえてほかの遺体っぽいのと一緒に寝ころんだAさん

仲間と一緒に再び銃をとって戦うAさん

というタイムスクープハンターもびっくりな時間旅行状態。

 崩れ落ちる兵士はゾンビだったという説が出てこない限り、かなり厳しい状況ですよね。


 ここまで読んだみなさんは「やっぱりヤラセだったか!」と思うでしょう。

 ところが、

5)「ヤラセ」ではなかった。

 なんという運命のいたずら。「ヤラセ」ではありません!
 この答えは面白いので、さすがに書かないでおきます。


さて
1)の「撮影したのはキャパじゃなかった」ですが、
「じゃあ誰が撮影したのか?」の答えは、
(以下、何度目かのネタバレ閲覧注意)


















 撮影したのは、キャパの恋人で、同行していた女性初の報道写真家といわれるゲルダ・タローだったのです!

 彼女はこの写真をとったあとに、スペイン内戦の従軍取材中に、事故で戦車に踏まれて死亡しているのです。

 キャパの名誉のために補足しておきますが、彼女が死んだからキャパは自分の名前でこの写真を発表したのではありません。
 この「崩れ落ちる兵士」をとった時は、まだゲルダ・タローはキャパのマネジャーのようなもので、自分の名前で作品を出していなかったのです。

 ご存じの方はご存じでしょうが、ロバート・キャパという名前自体、ゲルダとキャパが二人で「これなら立派なカメラマンっぽい」と一緒に考えたペンネームです。

 ですから、この頃の「キャパ」の作品は、ある意味で二人のものだったのです。
恵美嘉樹みたいなもんですかね、もっとメジャーな例なら、初期の藤子不二雄

 キャパがなぜ、この写真について語らなかったのか、その理由は明白でしょう。

 このような「オチ」では、キャパがとんでもないニセモノとなってしまいます。
 しかし、沢木耕太郎さんは、ちゃんとキャパの名誉を守りつつ、その重い十字架を背負ったキャパが本当に輝いた瞬間を最後に描き出します。ご安心ください。(ヒント:
ちょっとピンぼけ (文春文庫)


 なんで恵美嘉樹が放送前の内容をそんなに詳しく知っているんだ?と疑問にもたれたかもしれません。

答えは簡単。

沢木さんは2月17日にこのことの本「キャパの十字架」を出版します。そして、その全文はすでに発売済みの文芸春秋(2月号)に掲載されていたからです。

大興奮間違いなしなので、ぜひ読んでください。

キャパの十字架

沢木 耕太郎 文藝春秋 2013-02-17
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