歴史ニュースウォーカー

歴史作家の恵美嘉樹が歴史のニュースや本の世界を歩く記録です

 ネアンデルタール人が滅び、我々の祖先スネ夫はなぜ生き残れたのか

 毎週水曜日の読売新聞では、文化面で歴史を特集していますね。
 きょうは、滅亡した旧人ネアンデルタール人と新人がどのように入れ替わったかという、「人類」はいかに選択されたのかというお話についての寄稿論文(ネット掲載なし)です。

歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化

歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化

=人類学の名著、著者が来日するようです(下参照)

 先史人類学の赤澤威・高知工科大教授さんですが、ぱっと読んですぐに分かるような内容ではありませんでした。まあ、これだけ大きいテーマをずばっと明快に言い切るのは難しいのでしょうね。
 ということで、恵美がかわって要約しましょう。
 

 舞台は、今は内戦著しいシリアにあるデデリエ洞窟。赤澤さんは、20年前にここでネアンデルタール人の骨を見つけました。
 その洞窟は、30万年前〜5万年前までネアンデルタール人が住んでいましたが、滅亡。その後、現世人類が住み着いたという場所です。

 かつては、旧人=遅れている<新人=優れている人、ヒャッハー、強い者は生き残る!と考えてきました。
 ところが、個としての運動能力も、さらには脳の大きさだって、むしろネアンデルタール人たちのほうが優秀だったのです。
 
 なんでやねん?という疑問について、最近、提唱されている有力な説が、この論文にもある

 旧人は、受け継いだ知識や技術が活かせる環境を求めて移動を繰り返したのに対し、新人は未知の環境帯へも進出して新技術を創出し、拡大していった。その勢いの違いが両者の命運を分けたというシナリオだ。

 ということです。
 ネアンデルタール人ジャイアンなので、泉があったり、食べ物があったり、風雨をしのげる洞窟だったりといった、いい場所を優先的に占有します。ところが、スネ夫である我らが祖先は、劣等感ゆえにアイデアを凝らして、ジャイアンが「そこはムリだろう」という環境にも適応していった、となります。
 別な言い方で言えば、ネアンデルタール人はドコモ、新人は孫正義とでもいえましょうか。

 折から、5万年前ごろの天気は大荒れ警報が毎日発令中。「想定内」しか対応できないネアンデルタール人たちはアボンしてしまったというわけです。

 この仮説を「学習仮説」と呼んでいるのだそうですが、赤澤さんは、

 その裏付けにはさらに二つの新しい研究が必要である。
 とおっしゃります。

 1、だんだんわかってきたヨーロッパ以外のケース、つまり北京原人とかもみんなで研究しましょう!

 2、旧人の脳の化石をスマホやモバゲーアプリなど(ウソ)最新技術を使って頭蓋骨を復元して、かれらが「なにを考えていたか」調べればいい!

 前者はともかく、後者は、うーん、まゆつば?なんて思って読んでいたら、ご自身も

このようなアプローチは例がなく、世界に強いインパクトを与えるであろう。

 と書いています。うまくいったら、確かにインパクトでかいですねえ。楽しみです。

 ちなみに、18日に東京でこれについての講演会「ネアンデルタール人と新人サピエンスの交替劇」があるんだそうです。
http://www.koutaigeki.org/11.18.html 
講演会の内容文です。

新人サピエンスの誕生と旧人ネアンデルタール、彼らの間で演じられた交替劇
700万年前、アフリカでチンパンジーの祖先と別れて独自の歩みを始めたヒトは、猿人、原人、旧人と姿を変えながら生き抜いた後、20万年前に我々の祖先である新人サピエンスへと進化した。その新人の出アフリカによって、人類世界は大きなターニングポイントを迎えたのである。10万年前である。
新人に先んじてユーラシア大陸に進出し、自らの世界を拓き繁栄を謳歌していたネアンデルタール人など各地の旧人は、入植してきた新人に吸い込まれるように消えて行く。さらに新人は、旧人が越えられなかった酷寒の地や海洋世界への壁を突破し、人類世界を飛躍的に拡大していった。この劇的な変化はいったい何が原因で起こったのか。
旧人と新人の間で演じられたこの交替劇は、環境が大きく変貌する最終氷期に起こった。寒冷化する氷期環境下で食料問題などをどう解決したのか。それに成功した社会(新人)と失敗した社会(旧人)として捉え、考古学的証拠で裏付けようとする研究がいま、世界で盛んである。

語り手は外国の研究者ばかりのようです。英語が得意な方はぜひどうぞ。
上で紹介した名著「歌うネアンデルタール人」の著者もきます。