歴史ニュースウォーカー

歴史作家の恵美嘉樹が歴史のニュースや本の世界を歩く記録です

 古事記編集長のかきこみ

古事記の編纂者として知られる太安万侶(おおのやすまろ)(?〜723)の墓誌を、奈良県橿原考古学研究所古事記1300年に合わせて再調査したところ、墨で書かれた文字を発見しました。10月4日に発表しました。
 12字確認されましたが、読めたのは、「安」「萬」「侶」と「十」「二」「月」の7文字。


奈良県橿原考古学研究所

 奈良時代の官人で、711年(和銅四)に元明女帝の命令で『古事記』を編纂したとされる人物。多人長(おおのひとなが)の『日本紀弘仁私記』の序文によると、『日本書紀』にも関わったとされています。
 その墓誌とは、1979年に、奈良市此瀬(このせ)町の丘陵にある墓から見つかりました。墓碑は、火葬されたお骨を納める木の容器の下から発見されました。縦29・1センチ、横6・1センチの短冊形で薄い銅板です。

 これが発見されると大ニュースになり、「古事記の編集長」の墓碑(埋葬された人の説明文)が見つかった! これで、偽物説が根強かった古事記は本物だ!となりました。
 ところが、実際に墓誌には41文字なのですが、古事記を編集したという経歴は特に触れられておらず、平城京左京四条四坊に居住したこと、養老七年(723年)7月6日に亡くなったことが分かっただけでした。(そのことが分かるのも凄いのですが)

 この誤解は今もなぜだか続いていて、墓碑発見=太安万侶実在、まではいいのですが、どうしてそれが太安万侶古事記となるのか、誰も説明しないまま、以下のような話が続いています。
くしくも今回のニュースの直前、10月3日の産経新聞のコラムです。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/121004/art12100408030001-n1.htm

 「墓誌が見つかるまでは、古事記偽物説が盛んだった」と話すのは、同志社女子大寺川眞知夫特任教授。戦前の皇国史観の反動もあり、古事記平安時代ごろの作とする研究者も多かったという。
 偽物である根拠として、711年の元明天皇による古事記編纂(へんさん)再開の記事が当時の公式な歴史書「続日本紀」に記されていないことや、文体も平安時代以降のものではないかなどと指摘された。安万侶も架空の人物との説があったが、墓誌の発見によって、古事記の信憑性(しんぴょうせい)が一気に高まった。


 まるで論理的でないことに歴史、考古学からの批判はほとんどなく、批判しているのは古代文学の三浦佑之さんです。
 まあ、恵美嘉樹も三浦氏のこの本を読むまで、盲目的に信じていたくちですが。

古事記のひみつ―歴史書の成立 (歴史文化ライブラリー)

古事記のひみつ―歴史書の成立 (歴史文化ライブラリー)

 それで、今回、銘文とは別に12文字があったのですが、その内容は一体?とワクワクでしたが、太安万侶古事記を結びつけるものではありませんでしたね。

 それはそれで興味深いのですが、なんのために書いたのかという新たな謎が浮上しています。
 各紙の研究者の話を見ると、大きく3つあるようです。

1)お墓の購入記録説
 これは面白いですね。中国の風習だそうですが、お墓の不動産所有権は土地の神様が持っているようで、神様からたしかに「購入しました」という証明なんだとか。

古代東アジアでは墓地を購入したことを示す「買地券(ばいちけん)」という証明書を副葬する例がある。福岡県では鉛板に毛筆で墨書した買地券も見つかっており、菅谷文則・同研究所長は「墓誌に墨書で追記し、買地券を兼ねたのでは」と推測する。
http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20121005-OYO1T00320.htm?from=main3

2)下書き説
 うーん、下書きなら書いた上から刻むんじゃないかなあ? わかりやすいけど、個人的にはムリと思いました。

 奈良芸術短期大の前園実知雄教授は「文字配分を確かめるため、隣に試し書きをしたのではないか」と考察した。毛筆を消さなかった理由については「副葬品は誰も見ないのが前提。このため、きれいにしなかったのでは」と話した。
http://mainichi.jp/feature/news/20121005ddn012040035000c.html

3)追悼説
興味深いけど証明不可能ですね。

「肉筆で書くことに意味があったのかもしれない」とするのは、京都教育大の和田萃(あつむ)名誉教授。「文字を刻んだ後、弔いの意味を込めて身内が書いたのかもしれない」と推測した。
http://mainichi.jp/feature/news/20121005ddn012040035000c.html

謎はとけず、また謎が増えた。


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