歴史ニュースウォーカー

歴史作家の恵美嘉樹が歴史のニュースや本の世界を歩く記録です

「出版一人」の裏話

本屋のレジにあるPR誌のお話。

ジュンク堂で買い物したところ、岩田書院のPR誌がありました。

死者のゆくえ

死者のゆくえ

『死者のゆくえ』がヒットした出版社です。


業界人には有名らしいですが、同社の新刊ニュース(という紙)には、興味深いコラム「新刊ニュースの裏だより」があります。

例えば555号の「『歴史図書総目録』から撤退」。
歴史図書総目録という定価400円ながら宣伝用に書店でただでもらえる600頁もの分厚い冊子があります。
岩田書院は今年から載せるをやめたそうです。

広告料が1点あたり1550円で、100冊以上出しているので18万円もの広告料になるからだそうです。
そのわりに、学会などでただで配布しても重いからもっていってもくれない。
今は検索すればネットで簡単ということだそうです。まあそうかも。


545号のコラム「図書目録」では、2009年の同社の図書目録について、350頁のものを2万3000部。用紙、印刷、製本代だけで299万円!だそうです。1冊100円くらいですかね。
で、これだけではなくて発送費が200万円で計500万円だそうです。ひえ〜。

同社は筆者の岩田博氏の一人しかいないそうで、ひとりで年商1億なんてうらやましいと人から言われるそうです。しかし、実態は経営が苦しいそうで、「ったく・・・。たとえ冗談にしても傷つく・・・。」とすねています。
大変なんですね。


ほかにもなぜか貸借対照表を公開したり、原稿を盗まれたりと、個人経営の出版業の悲喜こもごも(あんまり喜びは見当たらないけど)を感じられる面白いコラムです。本にまでなっています。
このコラムはホームページにも出ています。
岩田書院official


なお、546号では、一の宮の研究書、井上寛司『日本中世国家と諸国一宮制 (中世史研究叢書)』(2009年2月、9500円)が紹介されていました。



上のニュースが挟まっていた岩田書院『地方史情報』091(2009年3月号)より気になった本をメモメモ


西海賢二『富士・大山信仰 (山岳信仰と地域社会)岩田書院2008年、6900円
富士山と相模大山(おおやま)信仰の実態を明らかにする。

由谷裕哉『白山・立山の宗教文化岩田書院2008年、7400円
中央の修験道が形成されてゆくことを相即的に、それ以外の霊山に依拠していた山林修行者がその体制に組み込まれる、すなわち地方霊山における組織化が始まるとするなら、それ以前を問題とする観点である。略 北陸の霊山・立山に関して摂関期から院政期にかけて知られるようになる地獄説話をとりあげた。(第一部)

九州史学研究会編『境界のアイデンティティ (『九州史学』創刊五〇周年記念論文集)岩田書院2009年、9500円
目次から
入間田宣夫「中世奥羽における系譜認識の形成と地域社会」

九州史学研究会編『境界からみた内と外 (『九州史学』創刊五〇周年記念論文集)岩田書院2009年、9500円
目次から
坂上康俊「八〜十一世紀日本の南方領域問題」
服部英雄「宗像大宮司日宋貿易

井原今朝男、牛山佳幸編『論集 東国信濃の古代中世史岩田書院二〇〇八年、9500円
信州や東国の視点から分析した論考12編を収録。

橋本章彦『毘沙門天―日本的展開の諸相 (日本宗教民俗学叢書)岩田書院2008年、6400円
古代〜中世、毘沙門天が仏法守護神から福の神へと変化する過程を、説話を中心に考察。摂津・神峯山寺との関係にも論究。

榎森進ほか編『エミシ・エゾ・アイヌ (アイヌ文化の成立と変容―交易・交流を中心として)岩田書院2008年、9500円


また、女性の腐乱死体を描いたアングラ美術として注目されている
山本聡美ほか編『九相図資料集成―死体の美術と文学』(岩田書院、2009年、8900円)
が3月に出たそうです。みたいようなみたくないような。