男と男の煩悩史
- 作者: 松尾剛次
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2008/11/15
- メディア: 新書
- 購入: 2人 クリック: 36回
- この商品を含むブログ (21件) を見る
現代のお坊さんは、多かれ少なかれ、こうしたことが普通になっているようですが、このことは仏教の本来の考え方からするとかなり異質です。
「五戒」というお坊さんのしてはダメという約束事があります。
1、生き物をむやみに殺してはダメ
2、盗みをしてはダメ
3、みだらな男女関係を結んではダメ(不淫戒)
4、うそをついてはダメ
5、酒を飲んではダメ
これにあてはめれば、2、4はともかく、肉を食べ(1)、妻をもち(3)、酒を飲んでいる(5)現代のお坊さんが「五戒」を破りまくっているのかがよくわかります(もっとも、すべてのお坊さんがそうではないことはいうまでもありません)。
仏教のおしえには、こうした「五戒」などの約束事がありました。これを「戒律」といいます。僧侶は生活を細かく規定した「戒律」によって生活を送っていました。朝起きてから夜寝るまで、たくさんの「しばり」があり、それが修行でもあったのです。
しかし、どういうわけか、日本では歴史的に見てもその戒律が守られず、ゆるゆるだったようなのです。
本書はなかでも3番目の「不淫戒」に注目します。といっても相手は女性ではありません。男性です。
宗性(そうしょう)という鎌倉の僧侶が、36歳のときに誓った文章が残っています。そこには現在犯してしまった男は95人! 100人は超さないようにすること、というびっくり仰天なことを書いています。
これまでは男色がごくかぎられた上層階級(僧綱クラス、三位以上の僧侶)にゆるされた特権と認識されていましたが、この資料に注目した著者は、男色は当時なんら恥じるべき行為ではなく、当時の僧侶にとって「文化」であったと言い切ります。
僧侶の男色の相手は、10歳から15歳までの童でした。土谷恵さんの研究によれば、童には稚児と中童子、大童子というランクがあり、それぞれ服装や役割が違っていたそうです。
- 作者: 土谷恵
- 出版社/メーカー: 吉川弘文館
- 発売日: 2001/01
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る
また五味文彦さんは、藤原頼長という平安時代の貴族が、7人の男色関係があったことを明らかにしています。その人間関係は政治の世界に色濃く影響したようです。
- 作者: 五味文彦
- 出版社/メーカー: 山川出版社
- 発売日: 1984/12
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
たしかに、「95人切り」をした宗性は、100人までにしようという制約こそあるものの、男色そのものをやめようとはしていません。
男色は政治の世界にも仏教の世界にも身近な存在だったようです。
この戒律をはじめて日本にもたらした人物は、奈良時代の鑑真でした。それまでの日本では、戒律を授ける資格をもつ人がいませんでした。鑑真が来日するまで、日本の僧侶は「勝手に」僧侶と「自称」していたことになります。それが鑑真に戒律を授けられることで、正式な僧侶となりました。中国に行っても「おまえは正式な僧侶だね」といわれるようになったのです。鑑真の来日は、東アジアの中心地である中国で認められるという意味があったのです。
本書によれば、妻帯のゆるされる日本の仏教界の評判は、タイやスリランカなどからするとあまりよくないそうです。韓国では日本の植民地時代に僧侶の妻帯が一般化したそうですが、その後妻帯の反対運動が起こり、現在では反対派が多数とのことです(198頁)。
命をかけて荒海を乗り越え、中国から戒律をもたらした鑑真も、今の現状を知ったらがっかりするにちがいありませんね。