歴史ニュースウォーカー

歴史作家の恵美嘉樹が歴史のニュースや本の世界を歩く記録です

森浩一『古墳の発掘』(中公新書、1965年)

古墳の発掘 (1965年)

古墳の発掘 (1965年)

いまから40年以上も前の本である。しかし、現代にまで十分に通用する内容だ。

テーマは「遺跡破壊」。

高度成長期のまっただ中の当時、遺跡は破壊され続けた。多くの古墳は影も形もなくなった。現代も続いている。著者は遺跡が破壊される悲痛な現場の声を、ある時は研究者を名ざしで糾弾する。その強い意志に、活字を通じて圧倒される。

遺跡破壊の歴史は長い。本書の冒頭では800年前におこった「遺跡破壊」を紹介する。奈良県明日香村にある天武持統合葬陵が盗掘を受けたことだ。当時の社会では、盗掘は「悪」であり、盗掘事件発覚の3年後に犯人は逮捕されたことが貴族の日記に残っている。

「遺跡破壊」は発掘調査と切っても切れない。「発掘調査」をすれば遺跡は破壊してもよい。そんな風潮、考え方が蔓延した学会に対して、著者は激しく憤る。

そもそも、考古学の研究手法は日進月歩である。炭素14測定法、年輪年代測定法、ファイバースコープによる調査などなど、あげたらきりがないだろう。今日よくわかなかったり、あるいは見過ごされていることが、10年後の調査方法であれば大発見につながる可能性がある。だから遺跡は保存が原則である。これは考古学会の常識。

高松塚古墳の壁画がカビてしまい、文化財の保存と公開とが大きく問題となって取りざたされた。

大発見の裏には遺跡破壊が隠れているともいえる。「大発見」ばかりに目がくらんではいけない。